「千遥」
声をかけるも起きる気配がない。
すー、すー、と無防備に静かな寝息をたてる。
半開きになった口元。
起こそうと千遥の体を揺すった。
むにゅっと柔らかい体。
その手は、千遥の体に吸い付かれたかのように離れなかった。
華奢な体だ。
きっと簡単に俺の力で押さえつけられてしまう。
触れた手がシャツの裾から直接肌に触れる。
……やばい、止まらない。
こんな感情は初めてだった。
別に経験が少ない訳じゃない。
今までだって色んな女と関係を持った。
千遥よりスタイルが良くて、綺麗な顔をした大人の女達と。
妖艶に誘い手慣れたテクニックでまるで男を手の平の上で転がし弄ぶような女達と。
「き、桐生……っ?」
ブラジャーの上から胸に手を置いたところで、ようやく千遥が目を覚ました。
俺もそこではっとして、手を離そうとしたところ、
千遥にその手を掴まれそのまま、また胸元へ引き寄せられた。
「や、やめないで」
なんで、そんな必死そうな目で俺を見る。
直球すぎるんだよ。
そんな誘い方する女いるか。
だからガキだってんだ。
それにのせられそうになってる自分も大概だが。
そんな目で見るな。
……いや、俺がそんな目をさせているのか。
「……悪い、本当どうかしてた」
その手を振り払って立ち上がる。
「もう帰れ、送っていくから」
「桐生……!」
後ろで聞こえる俺を呼び止める声。
「この意気地なしっ!」
「は?」
その罵声に後ろを振り返ると、千遥はソファーの上で制服を脱ごうとしていた。
「このバカっ。やめろって」
それを止めようと、両手を掴む。
「こんなことして何になるんだよ」
横のファスナーが全て開けられ、脇からブラジャーと素肌が見える。
「桐生が少しでもあたしにその気になってくれたなら、こんなチャンスないじゃない」
そう言いながらも、顔は真っ赤だし今にも泣きそうだ。
「……あたし別に桐生に好きになって欲しいんじゃないの」
俯いて声のトーンを少し落としてそう言う。
「ただ、前みたいに突然会えなくなるのは嫌なの。それがすごく怖いの。こうやって会ってくれるなら関係なんてなんでもいい」
ぽたぽたと涙がスカートの上に落ちる。
「それだけ懸けてるんだよ。些細なメール1通、電話の1本でも……」
何も言わない俺に、しんと静まり返る部屋。
これだけ想いを伝えられても、どうすることもできない。
これじゃ意気地なしと言われてもしょうがない。


