アイドルとボディガード



俺が本気になってはいけないのに。

分かっているのにいつも直球でくるあいつに惹かれ始めているのは事実。


そんな苦悩も知らずに、千遥は屈託のない笑顔で駆け寄ってくる。


「桐生!」

珍しく高校の制服を着ている。
今日は学校だったのか。

しかし、全国のファンが羨むような満面の笑み。
そんなに嬉しいのか。
思わずこっちも笑ってしまう。

思えば、何日ぶりに会うだろう。



「今日はね、久しぶりに学校だったんだ」

「そういえば初めて見たな制服」

襟元に青色のラインが入った白地のセーラー服にラインと同じ色のスカーフ、そして青地のチェックのスカート。
夏らしい、爽やかなデザイン。

「似合う?」

そう言って悪戯げに聞いてくる。

「まぁまぁ」

「何まぁまぁって」

ぷーっと頬を膨らませる。

しかし機嫌を損ねたのも一瞬、すぐに笑顔に変わる。
ころころ表情が変わるのは見ていて退屈しない。


「で、今日はどこ行く?私ね甘いものが食べたい!」

「千遥、もう外で会うのはやめよう」

「どうして?」

「もし写真でも撮られたら大変だろ?本当はもっと前から気を付けるべきだったんだが」

「私は、会えるなら場所なんてどこでもいいけど」

「俺の家でいいか?」

「え、う、うん」

千遥の頬がぽっとピンク色に染まる。
何を期待しているのか、そんな照れる要素がどこにある。

「何、想像してんだよ」

「えっ、別に何も!」

少しつつけば面白い程動揺する。






それから俺の家まで着くまで、隣でそわそわ落ち着かない千遥。
見てとれる程、緊張しているらしい。

家に着いて挙動不審な千遥を家にあげる。
冷蔵庫の中を見ながら作れそうなものを考える。


「ご飯あるものでいいか?」

「うん、作ってくれるの?」

「あぁ、簡単なもので良ければ」

「わーい」

子どものように無邪気に喜ぶ千遥。
ソファーに座らせて、テレビをつけた。

キッチンへ戻り、トマトソースのパスタを作りにかかる。
麺をゆでている間に、ソースを作る。

簡単な男料理、そんなものの数分間だったのに。

テレビを見ていたはずの千遥はいつのまにか横になって寝ていた。

本当どこでも寝るやつだ。
さっきまで緊張してたのに。