アイドルとボディガード




「俺はどこであろうとお供するだけなので、決めて下さい」

そう言って雑誌を返す。

「つまんない奴だなー」

その日は会合があるからか、爺さんの機嫌は終日悪く周囲の人間は気疲れしていた。

なんとか夜の会合に引っ張り出し、眠りそうになるところを起こしながらなんとか形だけのご意見番とやらの責務を果たした。

こんな呑気な爺さんでも、一歩外を出れば命の危険が身につきまとう。

先代も先々代の組長も皆、敵対組織に狙われて亡くなっているのだ。


そんな爺さんを無事家まで送り届け、やっと帰宅する。




【お疲れ様、今日は新曲の収録があって
藤川さんにダメ出しくらいながらも頑張ったよ。
午後からはその振り付けの練習があったんだけど、やっぱりダンスは苦手。
先生にいっぱい怒られちゃった】


携帯にはいつも通り千遥からメールが来ていた。

一日の制限があるためか、奴のメールは長文なことが多い。

千遥の様子が容易に想像できて、思わず顔が綻ぶ。

【お前、ダンス致命的に下手だもんな】

【そんなことないもんT_T、今度テレビでやるからちゃんと見てね。前テレビなんて見ないってカッコつけてたけど、少し位見ないとあっという間に世間から取り残されちゃうんだから】

すぐ返ってきた返事。
すげ、どんだけメール打つの早いんだよ。さすが恐るべし、女子高生。

【いつやるの?】

【次の週末!見てくれるの?わーい、生放送だから頑張ろう!】

【まだ見るとは言ってないけどな】

【意地悪T_Tねぇ、電話できない?】

【おやすみ】

【少しだけでも声聞きたかったのに!しょうがない、おやすみなさい】

きっと今頃むすくれてるだろう。

いつも通りのやり取り。
千遥は制限の5通目に近付くと電話したいと言い出す。

それを毎回かわして、今日もいつも通り
かわした訳だが、どういう訳か奴の電話番号をダイヤルしていた。

すると、1コールも鳴り終わらないうちにすぐに電話に出た。

『桐生!』

『声でけぇよ、何時だと思ってんだ』

思わぬ声量にびっくりして耳から携帯を離す。

『だってまさか桐生からかけてくるとは思わなかったから。どうしたの?珍しい。私のことが恋しくなったの?』

『かもな』

『え、え、ウソでしょ!?』

『冗談に決まってんだろ』

あながち嘘じゃない。

千遥の声が聞きたかったんだ。


まずいとは分かってるのに、また断ち切らなきゃいけないのに。

止められないのは千遥に触発されたからか。