アイドルとボディガード




俺が所属する組織は、民間の警備会社とは銘打っているが、実際はヤクザや悪徳政治家又はその家族などの要人警護がメインとなっている。

民間の警備会社と一線を画している理由は、銃、刃物の武器の所持が自由なこと。
または相手を殺さなければ、殴る蹴るなど全ての暴力行為が黙認されていること。

ただし、それらは全て自分の責任の範疇内で行うこと。

つまり、警察に捕まっても絶対に組織のことは言わないことがルールとなっている。

もし漏らせば、家族、友人、自分を取り巻く人間関係の中で最も近しい人間から自分の変わりに何らかの処罰をされることとなる。



川口さんの側近、秘書的な役割を果たす男が本日のスケジュールを告げる。


「総代、今夜は川口組の運営会議があります」

「ごほごほっ、い、息が苦しいっ」

そう言ってわだとらしく胸を押さえながら表情を歪める。

「大丈夫ですか!?」

こぞって老体を支えようと黒服の男達が慌てて動き出す。

「今日は行けそうにない、連絡しておいてくれ」

またこの爺さんはサボろうとして、そんなことしたらどうなるか分かってるのか。

「あなたがそんなこと言ったら、会合なんて中止になって全国から幹部がここに集まりますよ」

俺がそう言うと、爺さんはぶーと拗ねる。

「えー」

具合が悪いなんて冗談にならない年代なのだ。
総代の具合一つで、全国の幹部がここに緊急招集されてしまう。


「もう私なんて必要ないだろう、ただのお飾りなのに。こんな老体に鞭打ってまで行かなくちゃいけないのか」

「総代、あなたはご意見番として必要な方です。秀次郎さんもそう思っているからこそ、お呼びになるのですよ」

黒服の男がそう言うも、爺さんは納得いかない様子。



「はー……」

しょぼくれた爺さんはため息をつきながら、テーブルの上に重なった旅行雑誌を手に取る。


「旅行に行きたいなー。でも、国内は危険だからなー」

そう言って京都やら北海道、沖縄とデカデカと書かれた表紙の雑誌を名残惜しそうに見る。


「桐生、ドイツ、フランス、イタリアどこがいい?」

そう言って、俺を見上げる。

「俺ですか?」

「別に国内じゃないからついて来てもらわなくてもいいんだが。お前も一緒に来ないか?」

そう言って、海外の旅行雑誌を目の前に差し出される。