あぁ、やっぱりこんな関係続ける訳にはいかないんだ。
そもそも俺と会ってることが、週刊誌にでもスクープに撮られたら、あいつは一貫の終わりだ。
アイドルに恋愛はタブーなのはもちろんだが。
きっと相手の俺の素性も暴かれるだろう。
俺が一般人とかならまだしも、日本の裏社会へ片足一本突っ込んでるような俺とのスクープなんかじゃ恰好のネタだ。
千遥の元から離れて、久しぶりの現場復帰。
木造の立派な大門を前に、以前には感じ得られなかった緊張感が戻ってきた。
早速、左右にある監視カメラが俺を睨みつける。
それだけではなく、敷地内は砦のような塀に囲まれまるで要塞のような厳重なつくりになっていた。
「桐生です」
インターホンを押しそう言うと、すぐさま大門が開く。
その門が開けば趣ある日本庭園が広がっている。
そして奥にそびえ立つのは、城のような大邸宅。
俺はここに住む主の護衛をしていた。
「おぉ桐生、久しぶり」
屋敷に入り早々、強面のガタイのいい男に出迎えられる。
ここの主の舎弟にあたる川上という男だ。
年齢も割かし近いこともあり、この組織の中でも気兼ねなく話せる男だった。
「しばらく顔見ねぇもんだから解雇されたのかと思ったぜ」
「まさか、俺が?」
「言うねー」
「そういえば、須藤ちゃん泣いてたぞ。お前が全然相手にしてくんないって」
「やっぱ、あんたが相手だったか」
川上とは女ったらしで、よく芸能関係からキャバ嬢など様々な女を囲っていた。
須藤もその一人だったのだ。
その川上のあとをついて、主の元へ行く。
豪邸のひたすら長い廊下を抜け、最奥にある和室の障子が開けられる。
後ろにずらっと黒服の男達が並ぶ中、その中心でちんまり座っているのが、川口組5代目総代、川口栄一郎という男。
見た目は白髪の和服を着たただ上品な爺さんにしか見えないが、その下には1万人以上の部下が全国に点在している。今は、息子に全ての仕事を任せここで隠居し、余生をのんびり過ごしているが、川口組の一時代を築いた男だった。
「おぉやっと帰ってきたか、桐生」
「すいません、またお世話になります」
「こちらこそよろしく頼むよ」
俺なんかを雇わなくても、この爺さんの周りには物騒な男達が常にそばにいる。
そんな中俺に声がかかったのは、組関連とは無関係の人間を傍に置いておきたかったとのこと。
川口さんいわく、組の中でも信用できるのは一握りの存在だと。
そしてその一握りの存在が常に傍にいる訳ではない。
そこで俺みたいな社会的にグレーな奴を雇った訳だった。


