藤川さんは普段温和だけど、怒ると怖い。

私はあの暴言を吐いた後、部屋の外へ連れ出され、鬼となった藤川さんにこっぴどく怒られた。

しばらく中で話した後出てきた2人。
ドアの前で話す2人に謝罪するべく、私は藤川さんに首根っこを掴まれながら待っていた。


「じゃ、そういう訳でよろしくね。ま、君の普段の仕事に比べたらぬるいような仕事内容かもしれないけど。ま、息抜きだと思ってさ」

「そうですね」


社長に言われて、奴はちらっと私を意味ありげに見下す。

いちいち癪に障る奴だ。
このボディガードの癖して軟弱そうな体しやがって、てめぇなんか……


「千遥ちゃん?顔が穏やかでないよ」

「……はい、すいません」


まるで私の思考が藤川さんに読み取られいるかのように戒められる。

私は、仕方がなく嫌々奴に頭を下げた。


「……小泉千遥です。よろしくお願いします」


おもっクソ不本意極まりない。しかし自主的に頭を下げた訳ではなく、後ろにいる藤川さんに無理やり頭を掴まれ下げさせられていた。


「この子のマネージャーの藤川将也といいます。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


藤川さんには頭を下げて返したが、私は完全にスルーされた。
悔しくてわざわざ奴の前に出て、でかい声で言ってやった。


「あの、よろしくお願いします!」


奴の身長は180cmはあるだろうか、150半ばしかない私を見下しながら奴はため息をついた。


「最初に言っとくが、俺はガキが嫌いだ。できれば極力関わりたくない」


今までとは違う低い声に、うっと一瞬怯む。
怯んだ私を見透かし、畳み掛けるよう冷たく睨む。
まるで深い深い湖の底を移すようなどんよりとした目つき。
彼の瞳にうつった私は、今にも泣き出しそうだ。


「……ガキじゃないです、一応高校2年生です」


震えそうになる声をなんとか抑えて言い返す。

むかつく、こいつ本当心底むかつく。
極力関わりたくないって、護衛でしょ?

下手したらマネージャーより仕事中付き添うこと多くなるんでしょ?
仕事放棄しますって言ってるものじゃない?

言いたいことはたくさんあった。
さっきの調子だったら、マシンガンのようにつらつらとそれはもう滑舌よく言ってやっただろう。

だけど、さっきとは違う私を心から嫌むような目が怖くて。
普段強気で出る私としたことが、あまり強く返せなかった。


「マジで?中学生位かと思った」


傷ついたかな怒ったかな、と藤川さんは私を気遣いながらフォローを入れる。


「わ、若くみられて良かったなー、な?千遥?」

「ま、どっちにしろガキには変わりねぇけど」

「まぁまぁ2人とも」


不穏な空気が流れる私達に、藤川さんは仕事の話を切り出した。


「さ、早速ですけど明日から、千遥の送迎をお願いします。住所は聞いてますか?」

「はい」

「明日は朝8時から現場入りです。千遥ちゃんは分かってると思うけど明日はヤンジャソのグラビア撮影だからね、桐生さんはその時間に間に合うようにこの子のお迎えをお願いできますか?」

「分かりました」