「……え?、藤川さん……?」


目を覚ますと、車の中だった。
傍らには運転している藤川さんがいた。

あれ、おかしい。
さっきまで須藤さんのパーティーで三谷さんと一緒にいたはずだったのに。


「あたしどうしたの……?」

「間違ってお酒飲んじゃったみたいでね、三谷さんから連絡があって迎えに来たんだよ」

「間違って……?だってあれは三谷さんが持ってきてくれて、ノンアルコールだって言ってたのに」

「じゃ、三谷さんが間違っちゃったのかな?」

「そう、でも、きっと迷惑かけちゃっただろうから今度会う機会があったら、お礼言わなきゃ」

「……そうだね」


どことなく歯切れの悪い藤川さん。

何か隠してるの?

そういえば、三谷さんに引き止められたのも、まるで時間を稼ぐように他愛のない話をされたのも、

何か、仕組まれていたことなんじゃないの?


「ねぇ、藤川さん……。本当のこと教えて、あたし、もしかして三谷さんにお酒飲まされたんじゃないの?」


その問いに藤川さんは押し黙る。
それは肯定ともとれる答えだった。


「ねぇ、何があったの?」


そこで藤川さんから全てを聞いた。

隠していたのは桐生から口止めをされていたからとのこと。




「ねぇ、藤川さん携帯貸して」

「え?うん」


そうして、桐生に電話をかける。
いてもたってもいられなかった。


『はい』

「桐生?」

『え、千遥?』

「明日、夜の9時からポチ公前で待ってる」

『は?』

「来るまで待ってる」


そう言って切った。

隣で分かりやすい程慌てふためく藤川さん。


「千遥、だめだよ!何考えてるんだ!」

「ごめん、でも、」

「でもじゃない。だめだ、君はアイドルなんだよ?そんな目立つところで、人だかりができるに決まってるだろっ」

「分かってるけど」

「それに彼が来る確証なんて」

「それも分かってる」

「だったら……っ!」

「でもこうでもしないと、桐生は来てくれない」


そう、これは、一世一代の賭け。


「……薄々気づいていたけど、桐生くんが好きなんだね?」

「うん」

「こんなこと言いたくないけど、彼は君が思ってる程良い人じゃないよ。彼の本職は、」

「もう好きになっちゃったの、もうどうしようもないの」


藤川さんの言葉を遮って切々と告白する。

彼が何者だろうと。
もう関係ない。

だってもう後戻りできないとこまできてるんだもん。



「ねぇ、藤川さん、お願い。これで終わりにしてくるから」