「千遥ちゃんおつかれさま!
帰り間際、ちょうど廊下ですれ違った須藤リサに話しかけられた。
「いきなりごめんね。今度ね、私の誕生日パーティーやるんだけど、良かったら来ない?」
「お誘いありがとうございます、仕事のスケジュールがあいてたら是非参加させて頂きます」
「桐生君も来るよ」
こっそり私に耳打ちしてくる。
私は驚いて思わず聞き返してしまった。
「え!?」
「会場の警備、彼に頼んだの」
桐生に会える……。
胸がドクンと大きく高鳴った。
すぐスケジュールを確認するとその日の仕事は夕方には終わるものだった。
パーティー、行ける。
桐生に会える。
どうしよう、嬉しい。
私はその日のためにパーティードレスを買った。
ミントグリーンのコクーンドレス。
それとゴールドの華奢なネックレス。
少しでも大人っぽく見えるようにと願って。
パーティ当日。
さすが須藤リサ。
ホテルのホールを貸し切った大々的な誕生日パーティー。
本人は、自分が主役だと言わんばかりの、真っ赤なパーティードレスを着て一際目立っている。
しかし、私はただ桐生の姿だけを探していた。
やっと会える。
まず何を話そう。
ドラマの撮影のこと?
仕事がまた増えたこと?
映画に出れるかもしれないこと?
色々思いを巡らせながら、広い会場でただ彼の姿を探す。
そこで壁際に立つ、スーツ姿の桐生を見つけた。
私は急いで駆け寄る。
「桐生……っ」
「おぉ」
以前と変わらないぶっきらぼうな返事。
私は、久しぶりに会えたのに微笑むこともできない。
さっきまで話そうとしていた内容がまったく頭に浮かばない。
ただ、聞きたいことが先行する。
まるで責めるような目で桐生を見てしまう。
「……ねぇ、なんで連絡繋がらないの?」
その問いに、桐生は表情一つ変えずに答える。
「だってもう必要ないだろ」
「仕事が終わったから?」
「あぁ」
あまりにあっさりと答える桐生。
視界が潤んでくる。
しかしここで泣く訳にはいかない。
「……ねぇ、明日の夜あいてる?」
「なんで?」
「会いたいから」
「無理」
即答する桐生に、意地でもくい下がらない私。
「あさっては?」
「だから、」
「いつだったらいいの……?」
しつこいって思われてもいい。
また、会えなくなるなんて嫌だ。
いつのまにか涙が溢れていた。
「いい加減にしろよ」
そんな私に深いため息をつく桐生。
低い声で私を窘める。
「だって……」
「俺に何の用だよ?」
「プライベートじゃ会ってくれないの?」
「会う理由がねぇだろ」
吐き捨てるようにそう言うと、桐生は私の前から姿を消した。
ここで腕を掴んで引き止められたら良かったけど、そんな隙さえ与えてくれなかった。
どうして告白さえさせてくれないの?
どうしてそんなに一方的に突き放すの?
あたしがそんなに嫌い……?


