事務所へまた走り出した。
すると車の揺れも手伝い、千遥の頭が揺れ始め、時折かくんと動く。
猛烈な眠気に襲われているらしいが、俺に気遣いせめて起きていようとしているのだろう。
そんな頭もしばらくすると動かなくなり、眠りについたことに気付く。
少しほっとするが、それも束の間、すぐにむくっと頭を起こし慌てて俺に謝った。
「ごめん……っ」
「いい、寝てろ。眠いんだろ?」
「……さっきから変」
「何が?」
「優しいから」
「別に優しくしてるつもりねぇけど」
千遥から怪訝な目で見られていたが、やがてその視線は窓の外へ向けられた。
「ごめん、ありがとう……」
それは呟くような小さな一言だった。
俺も藤川さんも千遥に気遣っていることに気付いているのだろう。
こいつ弱気になると素直になるんだな。
俺は初めてこいつからまともに感謝された気がする。
事務所へ着くと、社長室だけまだ光がついていた。
すると社長室から社長と藤川さんの声が聞こえてきた。
「来年消えそうなアイドルNo1、小泉千遥だってさ」
びくっと、千遥の体が硬直したかのように動けなくなる。
「そんな……っ」
「ま、売れてるからこういった話題に取り上げられるんだろうけど、あながち間違ってないよね?」
なんとも不名誉な称号。下世話な週刊誌辺りが好きそうなネタだ。
千遥は唇を噛みしめて、静かに耳を傾けていた。
「君も薄々感じてるんでしょ?」
「いや」
「千遥は気付いてないみたいけど、実際仕事も少なくなってるんだろ?君が一番わかってるんじゃないか」
「それは以前が多すぎたからであって」
「でもドラマだってろくに演技できなかったらしいじゃないか。正直、ここらが潮時だと思うんだよね。うちも他にアイドル抱えてるし、あの子ばかりにはもう仕事回せないよ」
今の千遥には辛辣過ぎる言葉。
「ということで、君にはもう一人担当してもらおうと思ってるんだけど」
「すいませんお断りします。僕はあの子で手一杯ですから。」
藤川さんの答えは即答だった。
「はぁ、そう言うと思ったよ。君がそういうなら最後の切り札だ。もちろん断ってもらっても構わない。こういうのは早めに手を打っとかないといけないからね」
「……ぼ、僕には受け取れません」
「情けないなぁー、でも分かっておいてよ。これがきっと最後の手段てこと」


