先輩を正面から見据える。その視界がぼんやりと滲む。これは逆ギレだろうか。
先輩は静かに息を吐いた。
「ごめん、俺が悪い。俺が……、恋人らしいことしないから。でしょ? 不安にさせてごめん」
優しく、諦めたように微笑んで、先輩は手を伸ばした。
頬に添えられる手。目の下をそっと指先で拭われる。
初めて顔に触れられる。ドキリとして、緊張のあまり固まってしまった。
じっと見つめられる。すっとした綺麗な二重瞼。意思の強そうな瞳が細められる。
傾げた顔が近づいてきて、目を瞑った。
先輩のキスは、とても柔らかくて温かかった。
唇と唇がくっつくことが、こんなにも生々しくて恥ずかしい行為だとは思わなかった。絶対にこれは、恋人じゃないとしちゃいけない。
好きな人じゃないと、気持ち悪い。
好きな人とするから嬉しくて、切なくて、胸がきゅううっとなるんだ。
先輩は違う。私のこと好きじゃないから。好きじゃないくせに。キスをして、少し熱っぽい表情で尋ねた。
「続き、する?」
こんな先輩は知らない。
壇上に立つ先輩に恋した。完璧に整った服装で、溌剌とした表情で、凛々しく発言する先輩に。
相容れないものには冷たく、認めた人間には優しい。妥協しない強さと、常に前に向かう姿勢に憧れた。格好いいと思った。

