「は? 全然、不幸じゃないですけど。だって、友永先輩言ってくれたんだよ」

 ああ、思い出してもにやける。

「『いいよ、友達でいいなら』って」

 そう言ってくれた先輩は、私の持っていた日傘の柄にすいと手を伸ばした。
 先輩の日除けにもなるようにと、無理した高さで差していたことに気付いてくれたようだ。

『この傘、重いでしょ。姉は、作りのしっかりした物しか信用しないから』

 理由を付けて、差すのを代わってくれた。
 
 なんてジェントルマンなんだろう。気品のない隣人とは大違いだ。

「バーカ、それが不幸の始まりだろ?」

 同情めいた視線を投げかけてきたかと思うと、雅紀は大きな溜め息を吐いて、おもむろに立ち上がった。
 ここは室内――私の部屋であって、特に汚くはないはずだけども、なぜか両手でパンパンと派手にお尻をはたいた。

「んじゃ帰るわ。アイス、ごっそーさん」

 スタスタと階段を下りていく背中を追って、リビングを抜け、一応玄関まで見送った。
 我が家の造りは、「リビングを通り抜けなければ二階には上がれない」、いわゆる「子供がぐれないための間取り」だ。効果のほどは私で実証されていると思う。

 雅紀を見送ったあとリビングに戻ると、パソコンに張りついている母親に声をかけられた。

「みやび。あんた、雅紀くんと付き合ってんの?」