・約束・2

そう言った百合子さんは、私を見た。


「あなた・・・スタジオから出て行って」


「え・・・」

「気が散るのよね」


「・・・申し訳ありません。・・・では、後は村上が。
村上君、後お願いね」

「ちょっ春夏サン!」

私はスタジオの出口へ向かった。
百合子さんの声が私の背中を押した。


「この前の雅也との撮影は気持ち良くて、昔の彼を思い出したわ。
あの激しさとテクニックはちっとも変ってなかったわ・・・って、
手ほどきして教えた私が言うのもなんだケド」

私は聞こえないフリをして出口を目指す。

「予定に無いキスまで何度もしてきて、参ったわよ」


「・・・っ」

・・・泣いちゃだめだ。今は仕事中なんだから。

自分に言い聞かせてスタジオを出た。

ドアを閉めると、廊下には誰もいない。
今にも溢れそうな涙を堪えて、私はスタジオの屋上へ行き
深呼吸した。


「雅・・・也・・・」
朝、付けてもらったキスマークに服の上から手を当てると
一気に涙が頬を伝い、零れ落ちる。

・・・分かっていた事。
例え百合子さんが予定通りスタジオ入りしてくれても、すんなり
撮影が進むわけがないだろうと・・・
どんな仕打ちでも耐えられるようにと、お守り代わりに
キスマークを付けてもらったつもりなのに・・・