哀しみの瞳

アパートに、秀が帰って来た。


「何で、また君が、此処にいるのか?」



「大切な話があるの!事務所では、話せないから、終わって帰ってくるの、待ってたのよ!」



「俺には、君とは、話す事なんて、何にもないよ!たとえ、所長のお嬢様でもね」



「あらっ、そんなに冷たくしなくても、少しは私と仲良くしてた方が、貴方にとっては、得かもよ!貴方は、まったく、偶然私の父の事務所に入って来たのよ!これも、何かの縁だと思わない?」

「……」


とっ、ドアの所に目をやった秀は、少しはみ出しているメモを見つけた。もしかして


慌ててメモを見た。


(秀に会いたかったよ。理恵―)


「君は、帰ってくれ!今後一切、君には、用はない!」

そう言って、秀は走り出した……



理恵! 行かないで!!行かないで!!俺が行くまで、待っててー―



ホームへ出ると、まさに理恵が電車に乗ろうとしていた。

「理恵っっ―!」

思いっきり理恵の所へ走って行き―


「理恵っ、乗るな! 行こう!!」


「秀っ、ちよっと…待って!」

秀は理恵の腕を掴んで、駅の外まで、うむを言わさず、連れて来た。

そして、何も言わずに理恵を強く抱き締めた。



「理恵!帰らないで……俺と…いて!!」

さっきようやく枯れたはずの涙が、また何処からともなく、流れ落ちる。


「理恵?泣いているんだろぅ? バカだなぁ!理恵の泣き虫!

今日は理恵を何処へもやりたくない!離したくないよ」