「ねえ」





佳津が、あたしに背中をひっつけて体重を乗せてくる。

そろそろそんな体勢にも慣れてきたというころに、佳津はあたしにそう声をかけてきた。





「なに?」





顔だけ振り向かせると、綺麗な佳津の顔が近くに見える。

相変わらず見惚れてしまうので、いっそのことそれを隠さないようになってきた。





「今日さ、花火大会あるじゃん?」


「え、うん。というか佳津ってどこに住んでるの?」


「んー、それはまだ言えないけど」





変に誤魔化されてしまい、余計に気になるところ。

でも訊くまでもなく言葉をかぶせられる。





「じゃあさ、今日一緒に行かない?」


「え?」





…まさか、誘われるなんて思っていなかった。

まだ会ってばかりだし、佳津のことはあんまり知らない。


……これって、デートの誘いってことかな?





「いいよー。でもまさか佳津からデートのお誘いなんてね」





にぃっと笑って見せる。

そんなあたしをじぃっと見つめてからくいっと口角を上げると「まぁね」とあっさり肯定されてしまった。





「あ、葵。着物着てきてよ。……あ、なかったらいいけど」


「着物? 多分あったと思うなぁ」


「やった」





心の底から嬉しそうにガッツポーズする佳津を見ていると、なんだか微笑ましくなっちゃって。

可愛いなぁ、なんて思ってしまう。





「夜の6時、北公園の時計塔の下は?」


「うわ、北公園の時計塔の下ってカップルの待ちあわせで有名なとこじゃん!」


「そうだけど?」


「こいつー!」





やけにロマンチックなことをしてくれる。

男なのに、女の心をばっちり掴まれているような気がしてちょっと気に食わない。

けど、佳津が小さく「……楽しみだな」なんて呟いてるのを聞いちゃうと頬が紅潮してしまう。


――ったく、本当に可愛いやつめ!





「6時ね、ちゃんと待っててよ?」


「当たり前じゃん。そっちこそ先に行くとかやめろよ?」


「あははっ、どーかなー」





このときのあたしは、その時計塔の下でなにがおこるかなんて…





知る由もなかったのだ。