「……会いたいなぁ、なんて」





そう思うとは、ずるいことなんだと思う。

だってあたしは全くもってあの子に関係ないし、あたしがどれだけあいつを好きでもとっくにあたしは失恋してるんだから。





「…ほんっと、嫌になっちゃうよ」





ただの、負け犬のくせに。




―――

――






「葵、おはよ」


「おはよー」





今日も、ネットカフェで待ってくれていた男の子。

あれから、佳津はあたしのことをいつも待っていてくれた。


必ず先に此処にいて、いつもあたしに「おはよ」と無愛想に言ってくるんだ。

そんな佳津が、今はどうしようもなく愛らしかった。





「あれ、今日元気ない?」


「そんなことはないと思うけどなー」





他愛もない会話をしながら、指定された部屋へと移動する。





「あれ?」


「どしたの?」


「なんで部屋…ひとつ?」


「いいから入ろうよ」





返事がなく中へ入ることを急かされ少しだけ動揺してしまう。

けれども先に中へ入った佳津の後ろから小さい個室へと入った。





「やっぱり今日の葵、元気ないよ」





そう言うとおもむろにあたしの顔を自分の顔を近くへと引き寄せた。


…え。


背が小さいから、腕をめいっぱいに伸ばして。

あたしの後頭部に優しく手を添えて。


こつん、とおでことおでこをひっつけた。





「か、佳津ッ!?」


「熱はないみたい…だけど」





近くで見れば見るほど、佳津の顔は美形なんだなぁと思い知らされる。

見惚れてしまうくらいに。





「葵、どうしたの?」





はっと我に返ったときには、佳津はニヤニヤした顔でこちらを見ていた。


……絶対こいつ、分かってるでしょ!





「もおー、離してよ」


「嫌だ」





はぁっ!?





「だって照れてる葵なんて、レアでしょ?」





あまりにも満足げにそう言うものだから、口を引き結んでしまう。

…でもあたしが照れているのを否定することなんかできなくて。





「……馬鹿」





悔しいから、そう呟いてやった。