「……」
ふわふわと安定しない空間。
多分此処は現実じゃないんだろうと思う。
夢の中だろう、なんていう推測をしてみて。
「―――――」
…あの子が、あたしに手を伸ばしていて。
あたしは、笑いながらその手を取って。
あの子も、笑っていて。
――現実ではそんな顔、見せてくれないくせに。
少なくとも、今は。
「――――。」
両手を合わせて、指を絡めて。恋人繋ぎなんかしてみちゃって。
その状況を疑いもせずただ幸せそうに笑っているあ「あたし」が、憎かった。
現実がそんなに甘いわけがないのに。
そこでふと、気づいてしまった。
「嗚呼、あたしは夢の中ですらあの子が関わると夢を見れなくなってしまうのか」と。
「……悲しい奴だな」
そんな一言を残して、あたしは夢の世界から目を覚ました。
―――
――
―
「あっつ…」
季節は夏。夏休みに入って大して時間も経っていない。
そういえば教師が、夏休みは夏が熱すぎるからある長期休暇なのだと聞いたような気がする。
…なんにせよ、そんなことは覚えていないのだけれど。
「……あ、」
そういえば、今日も待っているんだった。
彼が。少年が。年下の男の子が。
「………まぁエアコンきいてるし、行くか…」
もそもそとベッドから起き上がり、部屋のドアを開ける。
――あんな夢を見たあとのせいか、やけにドアノブが重く感じられた。
それからは足取りも重く階段を下りて、誰もいないリビングを一瞥する。
「あたしは厄介者払い、か……。」
今月のお小遣いです、と書かれた紙と共に置かれていた福沢諭吉が、両親があたしを毛嫌いしていることを見せつけるかのようにテーブルに置かれていた。
