びっくりして、ヘッドフォンを外すのも忘れて振り返るとそこには。
不敵な笑みを浮かべて壁の上からこちらを覗くあの男の子がいた。
「な……なな…?」
口をぱくぱくさせて目を見開く。
はっとヘッドフォンを外していないことに気付き外すと画面上にうつる「KAZUKI」が目に入って男の子と≪KAZUKI≫を交互に見てしまう。
「何驚いてんの、馬鹿みたい」
くすっと笑われたことによりかぁっと顔が熱くなる。
出会って間もない人物なのに……!
悔しさと恥ずかしさでぐっと拳を握る。
「そっち行くけど、いい?」
「え? 行くって……?」
応えを聞くまでもなく、その男の子は壁をひょいと乗り越えてこちらの部屋に入って来てしまう。
「えええ!? いいの、それ!?」
「さぁ? なんも注意書きに書かれてなかったしいいんじゃない?」
そういう問題!?
訳わかんなくなって頭がごちゃごちゃになる。
「てかさてかさ!」
「なに?」
少し興奮したような口調で言うあたしと、冷めたように返事するこの子に温度差がありすぎてちょっと泣けた。
「この≪KAZUKI≫ってアバター、君なの?!」
びしっと猫耳アバターを指さして尋ねる。
「そうだ、って言ったら?」
「なんであたしのアバター分かったの?!」
なんだか神経を逆なでされるような物言いに少し腹を立てる。
「だって、結構前から此処で見てたし。場所なんてログインしたばっかだと自分の部屋に出るから、検索かけやすい」
「なに、それ……」
椅子に座っているというのに、へなへなと力が抜ける感覚というのはこういうことなんだろうなと今初めて感じた。
「…ま、此処で会ったのもなにかの縁なんだよ、きっと」
男の子はそう言うと、長い前髪をうっとおしそうにかきあげた。
その仕草にどきっときてしまった自分も、いたみたいで。
「名前、教えてくんない? あと年齢」
「いや…、訊くならそっちから言いなよ……。」
「それもそうか」
細い腰に巻かれた白いシャツが、男の子をより細く見せるように感じた。
「僕は桐生佳津(きりゅう かず)。あんたは?」
「あたしは…寺野葵。中三だけど」
「…へぇ。幼そうに見えるのに僕より年上なんだ」
「えっ!?」
まず、気にかかったこと。
こんな大人びた少年が、あたしより年下だということ。
改めて見ると、身長が少々低いみたいで。
そんでもうひとつ気にかかったのは、あたしが幼く見えたってこと……。
「じゃあ佳津は何歳なわけ!?」
「僕? 僕は中一だけど」
まさかのふたつ下だった!!??
「まじでー……、ありえない……」
「あり得なくないし。…葵」
突然、名前を呼び捨てにされてキュンときてしまった。
てかキュンってなんだ!?
恋する乙女じゃないんだよ!!??
「な、なに?」
「明日もまた会おうよ」
――純粋に笑った顔が、すごく可愛かった。
あたしに弟がいたら、こんな感じなのかなぁって、思う。
でも佳津のことは、「弟っぽい」とは見れないみたいなんだけどね。
