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次の日。




何だかいつもより早く起きてしまったあたしは、


いつもより丁寧に歯を磨いて、



いつもより慎重に化粧をして、



いつもよりゆっくり朝食を食べた。




そして家を出るときは、いつもより念入りにリップを塗ってから外へ出た。




ふわふわと巻かれた髪が、冷たい風に揺らされる。





「あ、おはよう」





今のは見間違いかな、



なんであたしの家の前に、高崎が居るんだろう。




「な、ななな何で……!?」




いつもは別々に学校に行ってるし、


一緒に行くなんて約束もしてない。




高崎はあたりまえのような顔をして笑う。




「今日たまたま早起きしちゃってさ、…来たらダメだった?」




「いや、そういう問題じゃないでしょ!」




高崎の家からあたしの家までは、

学校へ向かう電車を途中で降りて、


そこからまた徒歩で15分ほど歩かなきゃならない。



高崎からしたら、凄く遠回りをしていることになる。




「わざわざ電車降りてまで来たの?」




「うん、そうだよ」



ケロッとした顔でそう言った彼は、“行こ”と、あたしを促す。




「早起きしたからって、なんでこういう事すんのよ……。家でまったりしてればいいのに」




「いーじゃん、俺がそうしたかったんだから」




「・・・・」



なによ、それ。




高崎はあたしの隣で、愉快そうに歩いている。




「…………早起き。あたしも同じ」



ちょっとした事が嬉しかったりしちゃうのに、


素直じゃないあたしはそれを伝えるのがとてもヘタクソだ。




「えっ、そうなの?すげえじゃんそれ」



“なんかそーゆーの嬉しいな〜”彼はそう言って笑い飛ばす。




きっとコイツは、あたしがどれだけドキドキしているかも知らない。



まぁ、あたしがそう見えないようにしているからなんだけど……




「!」




隣を歩いている高崎の、手が
一瞬だけあたしの手に触れた。




「つめた!…なんでこんなに冷えてんの!?」



思わず手を取り、その冷たさを確かめる。



高崎の手は、氷のように冷たい。



「あー…、冷え性?」




…もしかして、




「ずっと家の前で待ってた…とか?」




しばらくの沈黙の後、高崎が吹き出した。




「今日の華ちゃんは鋭いね」




そしてケラケラと笑う。




なんだかものすごく、抱きついてやりたい。なんて思ってしまった。




この人はきっと、あたしのためなら何でもしてくれるんだ、って



そう思った。