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「裕也、居る?」



目の前にあるのは、
人、机、窓、机、人、人





「え、あぁ……居る、けど…」



喋ったこともない女子に、頼んで
裕也を呼び出した。



甘い香水の匂いがする。



女の目に促された、裕也は
ガタンと椅子から立ち上がった。


驚いたような顔で、近づいてくる彼が

なんだか懐かしく思える。




あたし、


決めたの。





「華……、」



「ちょっといい?」



裕也の目を見てそう言うと、くるりと踵を返して、ある場所へと向かった。




学校が終わり、やっと家に帰れる生徒たちは、嬉しそうにあたしの横を通っていく。




あたしはそれを横目に、カバンを握り締めて歩いた。



しばらく歩いて着いたその場所は、
嫌という程、見慣れた場所。






足を止めて、振り向けば
裕也がいて、

あたしは目を逸らさずに、まっすぐ彼を見る。




「………、あのね_____




「ごめんっ!ほんと悪かった!」



彼は深く頭を下げる。





違う、




違うよ。






あたしはもう、


決めたもの。




「ごめんなさい」




あたしがそう言うと、裕也はゆっくりと頭を上げた。



「あたし、裕也の側でずっと泣いているよりも____ 」




あの時、ふと目の前に居る、笑った高崎が眩しく見えた。


自分を大事にしてくれていることが
嫌でも伝わってきた。



「あたしを笑わせてくれる人が良い」



ずっと近くにいて、


笑ってくれて、


笑わせてくれて。



気づくのが遅かったのかもしれない。



「人の気持ちを、ちゃんと考えられる人が良い」




今日の自分は
びっくひするほど、勇気があって、


これもアイツのお陰なのかな、なんて思っちゃうくらいに

あたしの中に響いたものがあったんだ。



だから_____







「ばいばい、裕也」







今どんな顔をしているのかな、あたし。



目の前に居る裕也の表情が

悲しそうに歪む。



やっぱり、泣きそうになってしまう自分は
完全に吹っ切れているとは言えないし


これからもきっと、こんな気持ちになることが何度もあると思う。