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「あたし、裕也のトコ行ってくるね〜!」



小夏に飛び切りの笑顔を見せて、あたしは教室を飛び出した。



あの二人、今日お昼一緒に食べたりとかすんのかな…


わー、小夏に彼氏だなんて想像つかない。



これからたくさん話聞いてあげなきゃね。





視界に入る2-5の文字に、身体が少しだけ強張った。




「裕也ー……」




教室の隅っこの席に座っているあたしの彼氏、と

その周りに居る女子。



べたべたべたべた、
気持ち悪い。



「おー、華ー。ちょっと待ってな〜」



あたしに気づいた裕也は、肩に乗っかった女の手を、軽くどけるとリュックの中を物色し始める。






知ってる。





裕也は、優しいから。




あたし以外の子にも、あたしにも。


だから、別にいい。


って、思いたいけど、あんな目の前で堂々と見せられたら気分が悪い。




「おまたせ〜。行くか」



「うん」



どうせあいつらにしたら

ゆるゆるのズボンを履いた裕也の後ろをうろちょろする、女にしか見えないんだろうなー…


ま、いいけどね。




「今日どこで食べんの?」



「んー…体育館裏行くか」



「りょーかい」



裕也から香る、甘い香水。



後ろを歩いて居るだけで、前を歩いて居るのは裕也なんだって、分かる。





購買の人混みを抜けた私たちは、上履きのまま、目的地の体育館裏にたどり着いた。



人が誰もいない。

それに、音と全然聞こえなし、凄い静かだ。



二人して、石階段に座るとそれぞれ無言でそれを食べ始める。




裕也、今日もパンじゃん。



よくそれで身体持つなー…
あたしよりデカいくせに。




「裕也〜、土曜なにしてたの?」



さすがにずっと黙ってるのもどうかと思うので、私は何気ない話題を振った。



「んー…なんだっけなー」




茶色に染められた髪を、裕也は手慣れた手つきで触る。




裕也の嘘ついてる時の癖。




「あー、あれだよ。友達とカラオケ行ってた」



「ふーん。楽しかった?」



「まあなー」



「そっか」




きっと、そこにはあのクラスの女子も居て。



追及はしない。



だって、

それを聞き求めてしまったら、簡単に終わってしまう気がするの。




それを聞いて、本当のコトに向かい合えるほど、あたしは強くないから。




静かな時間だけが過ぎて行って、あたしの喉を詰まらせる。



こんなにも清々しい天気なのに、息が詰まるほど苦しい。




“ごちそうさま”と、手を合わせると、丁度裕也も食べ終わって居て、二人して重たい腰を上げる。