どこか焦りを見せるテノールが話すその人は……。



――ファビウス。


ヘンなの。

いつも冷静なのに、今のファビウスはそんなんじゃない。

ものすごく慌てている。



「ファビウスだって……。あたしのこと、ずっと部屋に閉じ込めていた……」

そう言った瞬間、あたしの目にあふれていた涙がポタリと頬からすべり落ちた。



ズキン。

さっきよりもずっと胸が痛む。

――どうしてだろう。

孤児院とか人さらいとか、そんなことよりもファビウスに物のように扱われていることの方がショックだなんて……。


そこで知ってしまったあたしの感情。




あたしは、ファビウスが好き。





たぶん、人さらいから逃げるあたしに手を差し伸べてくれたあの時から……。


じゃなきゃ、いくら助けてもらったとしても、出会ったばかりの人間に孤児院のことや、自分の性格なんかを話すはずがない。