男は、あさっての方向を向いて、ひとりごとのようにつぶやいた。


相手はどうやらあたしがいないと決め込むようだ。

だけど、そんなこと、あたしがさせるはずがない。


だってさっき、あたしはたしかに男の口から、『孤児院』っていう単語を聞いた。



その言葉はファビウスだけに関係があるなんて思えない。


「ちょっと、なに白々しいこと言ってんの!? あたしに関係している何かがあるんでしょう? さっさと白状しなさい」

あたしはベッドから起き上がると、胸の前で腕を組み、見知らぬ男をジロリと睨(ニラ)んだ。


「……すごく勇ましいお嬢さんだ」


うん?

聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がするわね。




「なにか言った?」

片方の眉をつり上げて尋ねると……。

「いえっ、なにも……」


男は背筋をしゃんとして、怯えたように返事をした。


その後、何かを考えるようにして視線を宙に浮かせる。