「うちは吉原の入り口に近いから、地の利があるの。高級店も近くに無いし。」
「そういうもんなんですか〜」 高級店って何?

店へ着き、何かすげ〜豪華な部屋へ通された。フカフカ絨毯の上にふかふか椅子が壁際に、
ズラ〜っと3〜40脚はありそう。中央には大理石と思われる長テーブルが2つ鎮座。

上座には50インチ?100インチ?のプロジェクターTVがワイドショーを映し、上を見ると
直撃死亡シャンデリアがキラキラと上空を圧迫する。

コンコン 「失礼します。」重いドアを開けて、さっきの運転手さんが入って来た。
何と目の前で片膝を付いてメニューを開き、「何か飲みますか?」

ええ〜!でしょ! 絶対! いやいやいや、そんなお構いなく…
「ビールはあれだからお茶持って来るね! ははは!」

いやー、俺一人でパニクってますわ。
今にして思えば、接客の仕方を見せてくれた って分かるけど、そんときは笑えんぞ。

お茶を持って来てくれて、「うちの店長が来れないみたいで、代わりに姉妹店の店長が面接を
するそうです。ちょっと待っててね。」と、片膝立ちです。

「あ、いちお私の名刺を渡しておきます。もしボーイが駄目ならお客で来てね。」
「あ、ありがとうございます。」 何ていい人なんだよ〜 (T_T) ウルウル

名刺の名前が読めないし「え〜と、のりょうさん?」
「あははは! そのまま、野良(のら)で。野良猫みたいなもんだから私は。あでも、いちお源氏名だからね。」

「そうなんですかー。ありがとうございます。」 源氏名って何だー! 分からない事だらけ…
コンコン 「失礼しまーす。おお!野良ちゃん元気ぃ?」「おはようございます布施さん!
じゃ私は失礼します。」「おお、また飲みに行こうな。」「はい、いつでも誘って下さい。」

野良さんはドアを開けて出て行き、閉めるときに片膝立ちになって静かにドアを閉めた。
こ、これが吉原の作法なのか…?

「失礼した。リオカーニバル店長の布施です。」 布施さんは隣の椅子に座り名刺を渡してくれた。
超ダンディな方。長身でガタイも良くロマンスグレーで笑顔も声も俳優みたい。

「ここローゼスの店長の東雲が急用とかで、急遽私が面接することになりました。」
「はい、よろしくお願いします。」と、履歴書を手渡す。

「お、高校卒業してホテルか。他にサービス業もありと。 よし、いつから来れる?」
「はい? あ、来月始めからでも…」 すげー 即決!

「東雲には君を採用したって話しておくから、来る直前にもう一回電話して。」
「ありがとうございます!」

「野良ちゃんに駅まで送らせるから、ちょっと待ってて。じゃあこれで。」
「あ、はい。ありがとうございました。」

人生の岐路というのは意外にあっけないもので…
コンコン「お待たせしました。」野良さんはまた片膝立ちな訳で…



さてさて、まだ迷いが無い訳では無いのではあるが、ちょっと面白そうな世界でしよ。
嫌になったらバックれてやら〜 くらいな感じでね。

突然に今月で辞めますと、ご迷惑をおかけしたバイト先の皆様、すみませんでした。
突然にバンド解散しますと、ご迷惑をおかけしたメンバーの皆様、すみませんでした。
マンションのオーナーさん、ゴミ沢山ですみませんでした。

プルル〜 プルル〜 ガチャ 「もしもし、突然だけど来月からソープランドのボーイやることに
したんだ。」 駄目よそんなとこで働いちゃ って言われるかもな〜って思ってたんだけど、
「え〜、何それ。楽しそうね、頑張って! 今度はいつ会えるの?」

人の妻よ、やっぱあなたは最高だ。