「――今日は、英語の多田先生が急用が入ったので急遽、自習になりました。高校入試試験の過去問を配ります。出来る所までしたら、提出してもらいますので。10分前に解答を配ります」
ちょっと伏し目がちにそう言うと、プリントを二つに分けて、左右の一番前の席の人に渡す。
――多田先生の代わりに、凛君が。
急な事なので、ドキドキしてしまう。
椅子に座って、腕時計をちらちら確認しているだけの姿でもかっこいい。
昨日、私はあの腕にしがみついて眠ったんだ。
「!」
教室全体を見回そうとした凛君と目が合って、思わず目線を外へ逸らす。
……不自然に逸らしたから、ぎこちなかったよね。
前を向くのが怖くなってきた。
窓の外を見ると、日陰に移された奏先輩が、松葉杖を手の平で、バランスを取りながら立たせて遊んでいた。
楽しそうに『おっ』とか『うわっ』と喋っているのが聞こえなくても分かって、笑いをこらえる為にお腹に力を込める。
(あっ……)
しばらく観察していたら先輩は、ふっと遠くを見た。
楽しそうにサッカーをするクラスメイトを。
そして、自分の足を摩って、ちょっとだけ下を向く。



