「凛君!」
バタバタと家から出ると、凛君は携帯とにらめっこしていた。
「俺から会いに行くって言ったのに、遅くなったな」
「何、してんの?」
今時珍しい、深紫色のガラケを睨みつけながらため息を吐いた。
「携帯が死んだ。新しくしなきゃ駄目だな。前から、メールも問い合わせしなきゃ受信されなかったし」
そう言いながら、家のドアを開けて私の方へ振り返った。
「入るだろ?」
「!?」
当たり前のように、ドアの中へ促す凛君。
で、でも私たちは恋人同士だし、
もう0時を過ぎた時間だし、
二人っきりになるとか、それって…。
「――さっさとおいで、あき」
うう。
久しぶりの優しい笑顔に騙されてしまう。
……何で急に優しくするんだろう。
この前まで冷たかったのに。
覚悟を決めて家に入ると、鍵を締めた音にさえドキリと体が揺れてしまった。
「ね、捻挫で済んで良かったね。奏先輩」
「何で知ってるの?」
ネクタイを緩めるとケトルを持ってキッチンから顔を出す凛君。
やっぱ、ちょっと冷たいかも?
「奏先輩から写メ付きのメール来たもん」
そう言うと、凛君からは返事が無かった。