『高校に合格したら、付き合ってくれるって言ったよね?』

合格通知を持って、家庭教師兼十歳年上の幼馴染にそう言った。

寝癖をそのままにして、黒縁の眼鏡の、優しくて意地悪で、でも大好きな凛君にそう言った。
凛君は読みかけの本を、机に伏せるとゆっくり此方を見る。
本を閉じるのではなく、伏せて置くのを見て少し悲しくなった。


一言で断って、また本を読み返すのではないのかなって、思って。


『じゃぁ、恋愛対象として触れていいんだな?』

『はい!?』

『優しくて頼りになるお兄ちゃんみたいな幼馴染は卒業していいんだよな?』

そう言うので、私はちょっと戸惑いながらも頷く。
私がどれだけ凛くんに片思いしてたと思ってるんだ。
そんなのはやく止めて、お互い男女として見て欲しい。

そう思って、恋に震えて下を向いた私に、凛君はそっと頭を撫でた。


『ずっと、大切だったよ。俺の亜季(あき)』

眼鏡を外しながら、凛君は私の頬に触れて、そしてゆっくり唇をなぞる。

少し唇を開くと、凛君は眼鏡を放り投げて、私の唇を奪った。


眼鏡を落とす音を聞きながら、嬉しくて涙がこみ上げてくる。

凛君は、本よりも眼鏡よりも、私の気持ちを優先してくれたから。


好き。ずっと好き。これからも。


だから、そんなこと言わないで。



先生と生徒で居よう、
なんて。