「……」
「……」
気まずい雰囲気の中、凛くんはカーテンを開け、 窓も開け、ドアには閉まらないように椅子を置い た。
――密室を避けるかのように。
「何で新道は俺の事を兄弟みたいって言ったん だ?」
コピー機の電源を入れながら、私にそう聞いてき た。 私も隣のコピー機の電源を真似して入れると、体 が震えているのが分かった。
「奏先輩は、私とり……先生が朝のバスケ稽古し てたのをよく見かけてたんだって」
「――そうか」 それっきり。
進路指導室には、コピー機から用紙が出てくる音 とカーテンが時折風でなびく音が響くだけ。
こんなに近いのに、凛君は遠い。
奏先輩が撫でてくれた頭をふいに触って、胸が苦 しくなっていく。
「先生……」
一カ月分の数学のプリントはすぐに終わった。 隣でコピー用紙の追加を入れている凛君を、わざ と『先生』と呼びかけてみた。
「ずっとなりたかった先生になったのに、私が居 たら邪魔?」
海外から帰らない両親を、なぜか凛君は尊敬して いた。 真面目で、頭も良くて、寝顔が可愛い。
そんな凛君が、いつの間にか私の知らない顔で、 先生として働いている。



