「みなみ?」

お腹を見つめる私に、侑哉はそう呼びかけた。

あの夜から、侑哉は『姉ちゃん』から『みなみ』と呼び方を変えた。


電子レンジのタイマーが鳴り、侑哉は立ちあがると同時に私の隣に歩み寄り立ち止まった。


「俺がいるよ。俺はどんなみなみでも、大好きだよ」

――泣かないで。
――泣かないで。

侑哉の瞳は、そう悲しげに叫び、揺れている。
子どもの様に叫んでいる。


肩に触れた手に、緊張が走った。

肩の温もりが、ゆっくりお腹をなぞったと思うと、今度はうなじにその温もりが感じられた。

「みなみ……」


そう耳元で囁かれ、甘い麻薬をかがされた気分だった。


あの夜だけの誤りで、お互い忘れて無かったようにしたら、普通の姉弟に戻れると思っていた。

なのに、また、触れたら。


もう一度触れてしまったら、――今度こそ戻れない。


そう思い、顔を上げられずにいたら、テーブルの上のスマホが振動し始めた。