けれどそんなやり取りにさえ突っ込める余裕がない。
あたしはだるい体を伏せて黙ってそのやりとりを聞き流して数分―――
「おいキョウスケちょっと晩酌の用意手伝え」
あたしに付きっきりだったキョウスケがイチ(本名:壱衣)に呼ばれて、それでも名残惜しそうにあたしを心配してくれていたけれど
「いいって。行ってこいよ。あいつ待たせるとうるせぇんだ」
事実、短気な壱衣は「早くしろ!」と部屋の外で怒鳴っている。
「はいはい」
キョウスケは生返事を返して腰を上げた。
それからまたも時間は流れ―――、一向に消えない頭痛に悩まされながらあたしはもう一度薬を飲むことを決意。
このときマサでもいいから病院に付き添ってもらえば良かったんだ。
けれど一晩様子見りゃ何とかなる、ってあたしの考えがいけなかったんだよ。
あたしはまたもノロノロと台所に向かった。
晩酌の準備をしているはずの壱衣とキョウスケの姿は見えず……
あいつらどこへ行ったんだぁ??
と首を傾けつつも、それよりも早くこの頭痛を何とかしたかったあたしは戸棚に手を伸ばした。
引き出しを開けると、見知ったパッケージが目に入りそれにのろのろと手を伸ばす。
そのときだった。
パシッ!
誰かに強く腕を掴まれ
コロン…
薬のパッケージは床へ落ちた。
あたしは掴まれた手を見て、のろのろと顔を上げた。
あたしの手を掴んでいたのは
――――戒
で
「飲み過ぎや。お前さっきも飲んだやろ」
今度は幻じゃなく、ホンモノの戒の姿が目に入り
あたしは目をまばたいた。



