子供心に千里があの場所に居たら千里までおかしくなっちゃうとか考えてたんだよな。
だってあのとき千里は泣いてた―――
おっちゃんとおばちゃんの不仲に。
『大人なんてかってだよ』
あたしが連れ出したはずなのに、千里はあたしよりも大人な顔でたった一言呟いたっけ。
それにあたしは何て答えたのか―――それが思い出せないが、立ち止まって千里は涙の浮かんだ目元をぐいと拭っていた。
『ボクは―――……ボクはあんな大人になりたくない。
いつか
いつか
さくらちゃんをまもれるやさしい男になりたい―――』
子供心にそう言われたことが―――嬉しかったのを覚えている。
千里は昔は―――泣き虫だった。
同学年の男の子に苛められた、とかお母さんに怒られた、とか何かあるとピーピー小鳥のように泣いて、そのたびにあたしが駆けつけていじめっ子をやっつけたり時に相談役でもあり、事実守っていた。
背もあたしよりちっちゃかったし、本当はお姫様に憧れてたけど、それを守る騎士ってのも憧れてて―――まるでナイトになったみたいで
千里を守ることに何故か使命感を燃やしていた。
だから‟あのとき”一ノ瀬家の不穏から連れ去るように、あたしは千里を連れ出した。
今考えたらバカな話だったと思う。
行く当てもないのに千里を連れ出し、どこへ行くわけでもなくただ走った―――
あのときの状況とか立場とか―――全然違うけど
でもあのときと―――やっぱり同じ。
あたしたちはこうして走っている。
でも千里はいつの間にかあたしよりもずっと大きくなって、いつの間にか千里に守られるようになった。
けどやっぱりその関係何年経ってもは変わらない―――
守って、守られて―――
千里があのとき言っていた。「さくらちゃんをまもれる男になりたい」と言う言葉を―――
ちゃんと守ってくれたね、千里。
だけどこの歳になるまで本当の意味で強く強く―――どんなときでも守ってくれたのは
「朔羅」
聞き覚えのある声を聞いてあたしははっとなった。
ぐちゃぐちゃだった視界が徐々にクリアになっていき、まるで時間を巻き戻したように今度は鮮明に街の気配がよみがえる。
今のは
何――――……?
それをはっきり確かめるより早く目の前に―――
大好きだった人の大きな影が突如現れて、あたしは思わず足にブレーキ。
だけど間に合わなかったのか、勢いがついたままその人の胸へ飛び込む形になった。
「良かった。やっと見つけた。
朔羅」
‟あのとき”と同じ台詞であたしを抱き止めてくれたのは
―――叔父貴だった。



