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役所から戻った二人、心は


「はー疲れたわー」と深くため息を吐き、肩を回しながらベッドに崩れた。


覆いかぶさるように背後に回った速人が心の両肩に手を回し、その強張った筋肉をほぐすようにマッサージをする。


ベッドの枕に顔を埋めながら、


「あんたのマッサージ、効くわ」


「そうか?おおきに」


心は枕から顔を上げ首を捻りながら速人を見上げると


「おおきに、ってこっちの台詞やんか。あんたのマッサージほんま効くで」


「そっか」


速人は言葉も短めに、心の肩をもみほぐす。


「あんな……うち……うちに何かあったら、あんたの手ぇで、“始末”してくれへん?」


「ん?」


と速人は聞き返した。本当は聞こえていたし、その意味を理解していた。


「うちの汚い“心”―――ここやな」心は心臓の辺りに手を這わせ


「あの男たちみたいにドロドロに溶かして欲しいんや。


そしたらあんたへの気持ちも一緒に」


排水溝に流れてしまえばいい、と想いを遮るように速人は心の背中にそっと手を這わせた。





「そら無理やわ。俺は心を―――」




速人はそこで言葉を呑み込んだ。


心は泣いていた。再び埋めた枕の下、声もなく


ただ泣いていた―――


渦巻く汚い『悪』を消しただけ、なのに心には“心”があって―――


速人はそんな心から手を離すと布団を心の上にそっと被せた。


真っ白なシーツが心の視界を覆う。


まるで、黒い部分を白に変えるように。


だが、黒を白に変えることはできない。どうあっても、“白”にはならないのだ。


それが彼ら“双子”に課せられた枷。


それでも、脳裏に焼き付いた鮮明な血の“赤”は少しだけ薄らいだ気がした。