受付嬢は心の言葉に特に不審そうにはしていなかったが
「辺鄙な所でしょう?街中に行ったらもっと豪華なホテルがあるんですが」と内緒話をするように心にこそっと耳打ち。
「いいぇえ。とても“素敵”なホテルです。お世辞じゃなく」と心が笑い「実は私たちもっとど田舎から来たから、こんなホテルも無くて」と恥ずかしそうにぺろりと下を出し、その横で速人がチェックイン受付簿に手書きで記載している。
「ちょっと治安も悪い所なので、お部屋にいらっしゃる際はしっかりと施錠してくださいね」
と親切な受付嬢が神妙な面持ちで言って
「ありがとう。でも、治安が悪いって……私怖いわ」と再び速人に腕を絡ませると、受付簿の小さな紙に字を書いていた速人の手がちょっとだけぶれた。
「大丈夫だよ、俺がいるから」と心を宥めるように肩を撫で、ちらりと受付簿を目で確認した受付嬢は
「素敵な旦那さまですね」とまたもこそっと心に耳打ちして微笑んでいる。
「ホントですか~?嬉しいわ」
と、女二人がやりとりをしている間、速人は記載を終えていて、受付嬢は慌てて仕事に戻った。
「蓮川さま、お二人ですね。お支払は…」
「カード使えます?一括、先払いで」と言って、カードをカウンターに置く。そのクレジットカードには“ARATA HASUKAWA"と記載があって、受付嬢は「ありがたい」と言わんばかりに早速キャット(クレジットカードを通す機械)に通した。
「ありがとうございました。ではごゆっくりどうぞ」
と受付嬢が頭を下げ、速人と心は腕を絡ませエレベーターに向かった。



