盛岡市内に入ったのは出発して7時間後、すでに日が暮れはじめている。
それでも1000キロ程の長距離をこの時間で到着したのは驚異だ。
「あー、しんど!ほんま疲れたわ!帰りはあんたの運転やで」と心は車のキーを速人の放り投げて、今度は速人が宙でキャッチする番。
「そら200キロ以上出しとったんや。サツに捕まらん方が不思議や。
それに、まだまだや、これからもう一仕事しなあかんで」
「分かっとるわ、ほな行こか」
と心は持ってきたボストンバッグを提げて、スタスタと歩き出す。
歩いていった先はどこにでもあるビジネスホテルだ。
「チェックインのお客様ですね、えーっと…お名前は…」
とカウンターで受付嬢がPCの画面を指で追いながら
「予約はしてないんです。空室はありますか?」と速人がにこにこ笑顔で聞くと
「喫煙室のダブルなら空いてますが」と受付嬢がそつなく答える。
「じゃぁそこで」と速人はまたも頷き、その横で心は観光ガイドのパンフレットを開きながら
「色々観光地があるのね。ねぇ、行ってみたいわ」と速人の体にしなだれかかる。
「今日は疲れたから明日にしようよ」と速人は宥めるフリ。
何も知らない受付嬢の目に二人は夫婦かカップルのように映ったに違いない。
「観光名所はたくさんございますよ。ご旅行でいらしたんですか?」
「ええ、本当は予約してたホテルがあったんですけど、この人のミスで…手違いで予約できてなくて」
と、心は苦笑いを浮かべて速人の腕を軽く小突く。だが次の瞬間、
「でも良い所が見つかって良かったって思ってます」
にっこり笑顔。女性特有の変わり身の早さに、受付嬢が分かりやすくほっとため息を吐いた。
どうやら空室は1室だけじゃないらしい。



