そのときだった。乗馬クラブの入口の方から少し派手めなエンジン音が聞こえ、真っ赤な車が滑り込んできた。


「何だぁ?」と蓮川が訝しそうにしていて、女たちもその車の方に目を向ける。


だが赤いスポーツカーのエンブレムを目に留めると、ちょっと息を呑む気配がした。


フェラーリのバタフライドア(車体上部に向かって開くドア)がゆっくりと天に向きあがり、左ハンドルの運転席から、少し大きめのサングラスを付けた女が一人、そのサングラスを取り払って、ショートボブの髪をゆるやかに振り


「Hi♪速人、仕事よ?クライアントが待ってるわ」


とひらひらと津島に向かって手を振っている。


蓮川をはじめとするITと女たちがそろって津島の方に顔を向け


「誰あれ、すっげぇ美人!津島さんの……?」とITがちょっと羨ましそうに聞いてきて


「いや、ちょっとした知り合いなんだ。同僚??みたいな」


「だけどクライアントって……津島さん医者なんじゃ……」と蓮川が不思議そうに聞いてきて


「大物の“手術”が待ってる、ってことよ」とこちらの会話が聞こえたのだろう、フェラーリに乗った女の……車体と同じ色の赤が乗った唇が動き、暗に「早く乗って」と目がそう語ってる。


「悪いね、俺はこれで失礼するよ」と言うと、


「すっげぇな、車もだけど、すっげぇ美人じゃね?」


「津島さんの同僚って言ってたんじゃん。紹介してもらわね?」


とITと蓮川は噂していて、津島は歩きながら振り返り


「悪いが彼女は君たちの手に負える女じゃない。とんだ“暴れ馬”だ」


と彼らに指さし、ちょっと不敵に笑った。


「えー!津島先生の……!?」と一方では不服そうな女たちだったが、


「またね」と津島は女たちに軽くウィンクをして、助手席に乗りこんだ。