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Mirror Tushima Brother’s

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「ハィっ!」


と男が、掛け声を掛けて馬の尻をジョッキーブーツの踵で軽く蹴ると、馬は高々と前脚を上げ、軽やかに飛び上がった。高く掛かったバーを楽々乗り越え、馬の脚が着地すると共に手綱を強く引き、まだ走ろうとしている馬を宥める。


ブリティッシュ馬術での障害飛越は、日本の馬術クラブではほとんど体験ができない。


この場術クラブは一部のセレブのみが利用できる、所謂高級クラブ。だが、障害飛越術をこなそうにしても、いかんせん高級嗜好の客向けの為、そのバーの位置は低く設定してある。


男を乗せた馬は物足りないと感じているのだろうか、まだ前脚で地面を掻いている。


「待ってくれよ!相変わらず早いな!津島さんは」


と背後に居た男二人が同様にそれぞれの馬にまたがり、ゆっくりと後を追ってきた。


一人はIT企業の革命児、一人は高級老舗旅館の跡取り、と言う組み合わせだ。二人とも「津島」と名乗った男と同じ年頃で二十代半ばだ。


因みに“津島”は「医者」と答えている。


もちろん、その身分に嘘はないが、それでも彼が地元の大病院に勤めていると言うのは完全なる作り話だ。


馬が誤って入り込まないように、見学人が怪我をしないように、と立てつけられた柵の内側で


「キャー!!津島せんせ~!」


と、こちらも女三人が津島に向かって黄色い声を挙げていて、津島はちょっと笑いながら軽く手を挙げた。


男三人、女三人と言うこのグループは“ロータス倶楽部”と名の付いた、セレブたちが集まったクラブだ。柵の内側で声援を送っているのも、大企業の御令嬢ばかり。


「ちぇー、乗馬やるとぜぇんぶ津島さんに持ってかれるよな」


とITの男が言い、


「けど、他事でも俺ら負けてばっかじゃん?」と老舗旅館の方が苦笑い。


ロータスと言うのは、この老舗旅館のお坊ちゃまの名前が“蓮川”と言うからつけられただけで、もともと立ち上げたのもこの男。津島は後から誘われて入っただけだ。


そこに意味なんてない。


ただ、“自分”を偽るだけなら申し分ない環境だったから、と言う理由しか。