せっかちに100円玉を…ほとんど強引にねじ込んで、僕は頭の中にある番号をプッシュした。


『―――……はい』


と、ちょっと声を押し殺したような……警戒するような女の声が聞こえてきて、


「僕だ」


短く言うと、ますます不審そうに声を潜めた。どうやら受話口に手を当てているのだろう、声がくぐもった。


『……どうしたの?この電話に掛けてこないで、って言ったわよね』


と、ちょっと刺々しい物言いで言われ、僕は小さくため息を吐いた。


「緊急事態なんだ。


悪いが、今すぐ和則を連れてその場を離れてくれ」


僕が言うと、電話の向こう側で女が息を呑むのが分かった。


多くを説明してる暇はない。


「一週間、指定したホテルに宿泊してくれ。偽名で予約した。今すぐ出るんだ」


『……“また”なの!?』





「本当に悪い、と思ってる。和則の存在がバレた」





僕が苛々と緑色の電話機の上部を指で叩いていると、再び女が小さく息を呑んだ気配が分かった。



『どうゆうこと!“ここ”は安全ってあなたが言ったんでしょう!


あなたの事情に私たちを巻きこまないで!』


僕は喚く彼女を宥めるように




「大丈夫だ、手は打った。


彼らは和則に手を出せない。


だが、和則の存在がどこで誰に嗅ぎつけられるか分からない。


とにかく一週間、そのホテルから出ないでくれ」





と短く指示をすると、女は深くため息を吐き


『分かったわ』と頷いたが、すぐに


『ねぇ……あなたが言った“あの男”にバレたの?』


と不安そうに聞いてきて、その裏に『あいつ』にバレて私たち逃げ切れるの?と意味が含まれていた。