小さな影、とは何てことない、小さいと言うと語弊があるな。立派な狼……もといシベリアンハスキーだった。


まぁ少し風貌が似ているが。


くぅん、とシベリアンハスキーは鳴き、僕の脚に纏わりついて体を摺り寄せてくる。


「どうしたんだ、お前?ご主人は?」


僕はしゃがみ込み、そのハスキーの背中をちょっと撫でた。ハスキー犬は心地良さそうに眼を閉じ、だがその首元にブルーの首輪を付けていてそこからリードが伸びているから、きっとどこかの飼い犬なのだろう。


僕がリードを取りあげようとしたとき、ハスキーはそれよりも早く、くるりと方向転換をしてゆっくりと歩き出す。


飼い主でも見つけたのだろうか、だがそれらしい人物は見つからない。


僕がその場で立ち止まっていると、そのハスキー犬はちらりと僕を振り返って、僕が一歩を踏み出すと、その犬もまた一歩と歩き出した。


―――直感



このハスキー犬は僕に何かを伝えようとしている。


いや、導こうとしているのだろうか。



そこから200メートルぐらい歩いたところに、頼りなげな街灯の下、薄暗い蛍光灯がその小さな入れ物中、カチっ…カチと小さな音を立てて点滅している。


蛍光灯の寿命がきているのだろう、しっかりメンテナンスされていないようで、今にも消そうだ。


でも、見つけた。電話ボックスを―――


ハスキー犬は電話ボックスの前で脚を止め、僕の様子を窺っている。


「おいで」


しゃがみ込み、手招くとハスキー犬は大人しく僕の元へ歩いてきて、そして甘えるように顔を摺り寄せてくる。


「リース!」女の子の声が聞こえてきて、ここではっきりと「ワン!」とハスキー犬……いや、リースは鳴いた。


「良かったな、リース。ご主人が見つかったぞ」とリースの頭を撫でると、リースも嬉しそうにワンと再び鳴き、若い女……年代的に言うとお嬢ぐらいか、その子の元に駆け寄ってきた。


「リース、もぉ。勝手にどこか行っちゃわないで」


女の子が手綱をしっかり握り、リースに「めっ」と怒る。怒られてリースはしゅんとなり「くぅん」と小さく鳴いた。


そして回れ右をして、女の子の元へ駆けて行く。



やはり、


僕をこの電話ボックスに導くためだったのか―――