会計カウンターの前、並べられた長椅子でマサと順番を待っていると、あたしのバッグでケータイが震えた。


慌ててケータイを出すと


着信:龍崎家


となっていて、


「マサ、わりぃけど、会計済ませてくれるか?家から電話」とケータイを指さし


マサは


「へい、分かりやした」と言ってじっと札番号が表示される電工パネルを見つめて……いや、睨んでいる??


だから怖ぇえって。


あたしはケータイ通話OKな所を探して……ても、案外無いもんだな。どこもかしこも赤い丸の中、斜線が走っていてその斜線の下にケータイのイラストが描いてある。


「ここならいっか」


と、仕方なしにあたしは非常階段の場所まで移動した。


そこはいつか見た……そうだ、戒がはじめて急性胃炎で入院した際、何者かの襲撃に遭って逃げ出そうとしたとき使った階段だ…


ドクター鴇田はあのとき「専用の鍵がないと入れない」って言ってたけど、それじゃ「非常階段」の意味ないじゃん、と心の中で突っ込む。


てか何で開いてんだ?


とちょっと首を捻ったが、鳴り続けるケータイが手の中でずっと震えていて


「ちょっと待てよ!」と慌ててケータイを開いた。


『あ……お嬢!?タクです』


何だ、タクかよ。てか何なんだ。


『お嬢が怪我されたって聞いてマサさんが飛んで行きやしたが、なかなか帰ってこないし、心配だったんです』


心配……?


「ありがてぇけど……」


言いかけたとき


『―――……え……もしもし!』


とタクの声が途切れ途切れになって、どうやらあたしの声も向こうには聞こえてないみたい。


ケータイを耳から離して電波を見ると、かろうじて短い線が一本だけ立っていて、その一本の線も消えたり現れたりしている。