心は着ていた(どこからか奪ってきたに違いない)白衣のポケットに手を入れるとタバコの箱を取り出し、それを一本引き抜くと口に含んだ。
「あんたらもどぉ?一旦冷静になるべきやない?」
と聞かれ、
「未成年に堂々と勧めるなや」と言いつつ、響輔と俺、二人同時に心のタバコに手が伸びた。
心の言う通り、冷静になるべきだ。
「それよりも、心先生……思ったより、東京入りが早かったですね」と響輔が先に立てなおした。
「せやろ~、もう忙しかったんやでー、
でも、対馬兄妹は
仕事が早いんが売りなんよ~
速人と二人で行ったさかい、思うたより早よ済んだわ」
「で?収穫は?」
俺がせっかちに聞くと
「あんたらが探しとった“大狼”の名前は玄武の歴史におらんかったわ。抹消されたかもしれへんけど」
「そっか……」まぁ、ここまで用意周到に来た暗殺者が早々尻尾を掴まれるようなことしないよな。
俺が煙を吐き出し気落ちしてると、
「同時に30年前の水の事故も、件数が多すぎて絞りこめへんかったわ。
けどな」
そこまで言って心は赤い口紅が引かれた口角をほんのちょっと色っぽく持ち上げると
「おもろい噂聞いてん」
「おもろい噂―――?」
「せや。
大狼っちゅう名前では玄武の中に存在しいひんかったけどな、“玄蛇”は間違いなく存在してた。
こっちは痕跡も薄くて、辿り着くんに時間が掛かったけどな。戸籍まで抹消できひんかったみたいや」
戸籍―――……
何でそんなもの……
一番大事なものを何で消し去っていかなかったのか―――
疑問に思ったが、ふとある考えが過った。
「消し去らんかったやない。
敢えて残しといたんや―――
いつか……
いつか、玄蛇の名前を取り戻すために―――」



