俺はバカラのグラスをゆらゆら揺らして、その揺らぎを見つめていると、芳醇な香りが漂ってきた。
「だが、イチに殺し屋を雇う金があるとは思えんがな。出世払いなら頷けるが。
そこまでスネークは気が長いとは思えん」
俺が答えると
「ああ、でも“あれ”は売れると思うぞ?
見るからにうまそうな脚だった♪」
と、タチバナはまたもニヤリと笑ってブランデーを飲む。
「ああ、“あれ”か?あの脚には1臆の保険を掛けている」
と、俺があっさり言うと
げほっ!ごほっ!
タチバナはまたもむせた。
乱暴に口元を手の甲で拭うと
「お前、今日は爆弾投下ばかりだな」と肩を竦める。
「言ったろう?スネークとイチは利害関係が一致しているだけで、恐らく金のやり取りはない。
スネークにとってイチを利用価値があるんだろう、イチのバックに何かとてつもなく大きな陰謀が渦巻いている、と」
「ああ、そうは言ってたが、今日は何だか確証がある言い方だな」とタチバナは興味深そうに目を細める。
「正直、五分五分ってところだ。
言ったろう?
俺は龍崎組に間者(カンジャ:スパイのこと)を飼っている、と。そいつからの情報だ」
俺はグラスをデスクの上に置き、脚を組み替えた。
「なるほど、ね。そのスパイの情報は?信用できるのか」
「信用はできる。
そしてそいつの情報に寄れば、イチのバックに着いているのは、通称
“T”―――
Tとスネークとの間に取り交わされたの契約は、イチの“見張り”らしい。
Tの目的が何なのか分からないが、どうやらTもイチに死なれちゃマズい理由があるらしい」
「ふぅん、理由―――ね。Tはイニシャルなんだろうか」
「分からん。だがTはどうやら女らしい。
さらに、スネークはそのTにUSドルで1,000万ふっかけて『契約内容の更新』を図ったようだ」
「それに対してT側は?」
「大金だ。流石に、即答はできなかったようだ。だがTの『本来の目的』は単にイチの見張りだけじゃない。他に目的があることは確かだ」
「確かに、日本円にして約10臆。流石に渋るよな。
でも逆を言うと、この提案にTが乗れば、それこそTの本来の目的を知れる」
俺たちはほぼ同時に顔を見合わせ、そして同じタイミングでちょっと笑い、ここではじめて勢いのついた乾杯をした。
どうやら考えてるのはこいつも同じことらしい。



