繊細なカットが施されたグラスがすぐに半分程琥珀色に染まった。
俺たちは乾杯の言葉もなく、互いのグラスを合わせて、半分ほど一気に飲んだ。
俺はさっきと同じように座ったままデスクに脚を乗せ、タチバナはさっきキリが座っていた場所に、これまた自分のオフィスかのようにくつろいで、片足を乗せている。
「旨いな」
くっそ、タチバナめ。酒のセンスだけ認めてやる。
「ホントは嫁にプレゼントするつもりだったのに、あいつは俺を置いて会社の飲み会に行くとか言い出して」とタチバナはさめざめ。
「ふーん、てか嫁、働いてンの?
お前と結婚するぐれぇだから金目当てだと思ったが」
「いや、それだけは無い。あいつは俺よりも会社を愛してる」と、タチバナはキッパリ。
こいつより会社を愛してるとか、ちょっと笑えるぜ。
でも…
「へぇ、キャリアウーマン系?」
意外だな……
「いや、常に崖っぷち」
意味分かんねぇ。
「今ん所に不満があるようなら俺の会社で雇ってやってもいいぞ?腰掛けOLでよけりゃ、な」とデスクに肘をついて提案。その嫁ってのが単に気になっただけ。
こいつが溺愛するぐれぇだから、相当な美女に違いない。
酒の趣味も合うが、女の趣味も合うところが厄介なところだ。
思い返せば、高校時代、女を取り合ったこともあったな。としみじみ。
懐かしいぜ……
じゃなくて!消したい!その過去!
俺の人生から消し去りたい!
「女と言えば、さっきすれ違ったぜ、お前んとこの秘書。
んで、鴇田のこれ」と言って小指を立てる。
イマドキやんねぇよ、それ。
「メガネ取ると、さらに美人だな♪」
と、タチバナは嬉しそうだ。
「何だよ、お前のタイプなのか?」と聞くと
「タイプっちゃタイプだけど、苦手と言えば苦手だな」
タチバナは意味深そうに言って含みのある微笑を浮かべる。
「何だよそれ」
「顔は美人でも中身は―――
怖いオンナだろうな、ってこと」
俺は目を細めてグラスに注がれたブランデーを一口。タチバナもデスクに口を付けていた。
「さすが犬並の嗅覚だな。
―――アイツだけは止めておけ。
アイツの本名は
玄蛇 朝霧」
俺の言葉に、ブランデーを口にしていたタチバナが盛大にむせた。



