俺の凄みにもキリは動じることなく、口の端に淡い笑みを浮かべ
「あら怖い♪」
と、全然怖がってない様子で俺の手から逃れると
「安心してください。私は寝返るつもりはありません。
前にも言いましたけれど、そもそも私は“兄”の存在を知らない。
一族の為、と言う義務感も責任も持っていない。
そう言う意味で、私は玄蛇にとって“裏切り者”かもしれませんね」
キリは温度の感じられない冷たい声で淡々と言い
「でも、これだけは言わせて
私はただの女です」
薄く笑った。
“ただの女”がヤクザの脅しをあっさりかわすか。
相変わらず食えない女だ。
「それにご安心ください。私は翔のことを―――……」
と言って、ちょっと首を捻った。
そこ、何故考える?
「愛してる?」
そこ、何故疑問形?
色々突っ込みたかったが
「私の目当てはたった二つ」
二つもあるのかよ。
「翔の顔と、か・ら・だ❤」
憐れ、鴇田。
こんな蛇女の餌食にされて。
今更ながら後悔した。
俺、結婚を止めさせるべきだったか?
「お前と居ると色々吸い取られる」こっちのペースも、脅しも、全く通用しん。
「お前は帰れ、鴇田の元にな。
鴇田が大切にしてる“イっちゃん”の元へ行ってやれ」
しっしと手で指図すると
「お先に失礼しま~す♪♪」
とキリはデスクから飛び上がり、スキップしながら出ていった。
ホント
食えない女―――



