朔羅とすぐ合流するつもりだったし、あいつの怖がりの性格からすると、すぐ近くで俺の登場を待ってるかと思っていた。


けれど朔羅は居ない。


「あれ?」


辺りを見渡すと、一面鏡張りの通路があちこち広がっているだけだ。


「どこへ行ったんだ、あいつ」


思わず頭の後ろに手をやり辺りを見渡して―――気づいた。





あいつ……




朔羅の香りがしない―――







ここはミラーハウスだ。つまり鏡の迷路になってるってことだろう。


さっきちらりと見た建物面積はそれほど大きなものではなかった。


と言うことは迷路は複雑かもしれないが、誰かがどこかですれ違う可能性だってある。


なのに人の気配一つしない。




―――おかしい





ふいにイチの言葉が蘇る。


『スネークは杉並区の焼死体の犯人を知っている。あいつはその存在を―――






と例えていた』



鏡――――



嫌な予感がして俺はあちこちを見渡した。


全ての五感をフルで研ぎ澄ませたが、そのどれもが制御を失い、やがて完全に壊れたように、何も感じられない。


朔羅…



「朔羅―――!」


俺が叫ぶと同時、遠くの方で何かが壊れる音がかすかに聞こえてきた。