カタン……


小さな音が聞こえて、音のした方を振り向くとイチがソファの上で首を項垂れていた。


長い髪がイチの横顔を完全に覆っていて表情が見えない。


さっきまで大事そうに持っていたグラスはテーブルの上に転がっている。半分程入っていたブランデーはそのテーブルの上で小さな水たまりを作っていた。


「イチ―――……?」


呼びかけても返事がない。ただ項垂れたまま微動だにしない。


訝しんで、イチの元まで向かうとイチのだらりとソファに投げ出された手、開かれた掌の中に錠剤のパッケージがいくつも乗っていて、


それは以前、俺が衛に頼んで処方してもらった睡眠薬だと気づくのは早かった。


「イチ!!」


思わずイチの両肩に手を置き、軽く揺すると、壊れた人形のようにイチの首がこくりと横を向いた。





「イチーーーー!!!」






『響輔は―――


あたしを愛してるって言ってくれたの。






だから―――






あたし、死んでもいい





って思った』




響輔が好き


大好き





世界で一番―――愛してる



でも



ママと鴇田のような未来が待っていると分かったのなら


生きてる意味がない。




イチがそう言った気がした。





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