PCを立ち上げた所で、再びちらりとリビングを見やると


イチはさっきと変わらずの態勢で、呑むわけでもないグラスをただ大事そうに両手で包んだまま。


視線をどこか遠くに彷徨わせている。


小さく吐息をつき、PCに向き合うと


「響輔と」


イチがほとんど消えそうな声を出した。


俺が振り返りイチを見ると


「響輔と付き合ったら―――」





「ああ、別に反対はしん。さっきはああ言ったが、


ヤクザの男は女を大切にする。




お前を泣かせたりはしない」



「でもあたしは泣いたわ」


イチの言葉に、イチに向けていた視線をPCに戻し


「だから怒った」




「響輔は―――


あたしを愛してるって言ってくれたの。






だから―――」



キョウスケは


本当にイチのことを大切に想ってくれているのだろう。


その言葉に嘘はない。


イチのことを想ってくれているから―――だから俺にあんな怒りを露わにしたのだ。


響輔からは最初から殺意を感じなかった。


ただ感じるのは、たぎるような熱い怒り。





『父親の責任果たさへんくせに


中途半端な優しさで




一結を傷つけるんやない。



ほんまは分かっとるんやろ。




一結が一番欲しいもんが』





響輔はこう言いたかったのだろう。



分かってる


分かってるが―――俺には、伝え方が



分からないんだよ