―――そして今に至る。
「くっそ、キョウスケの野郎、本気でやりやがって」俺はキョウスケに蹴られた背中をさすりながら顔をしかめてリビングに戻ると
ソファの上、イチが膝を立ててブランデーの入ったグラスを大事そうに両手で包んでいた。
何故だか、ほっとした。
俺が寝室の片付けをしている最中、リビングから物音もしなかったし、俺の態度に腹を立てて出て行っちまったかと思ったが……
「……うまいか?」
俺はイチの両手に包まれているグラスを目配せすると
「19の小娘にブランデーの味が分かるわけないじゃない」
と、そっけなく言われる。
まぁ、そうだが。
リビングと繋がっているダイニングルームのテーブルでノートPCを開いていると
「何?帰らないの?ここで仕事?そう言えば何で帰ってきたの」
とイチがのろりと顔をこちらに向ける。
「帰ってきたのは忘れ物があったからだ」
完全なる嘘だった。
いや、忘れたもの
―――それは“娘に対する愛情”
だったのかもしれない。
それを考えて、慌てて頭を振る。
「酒が入ってるから車の運転はできねぇし。それに―――……」
お前を放っておけない。
頭を振ったって、考えないようにしたって、その事実は消えない。
そのたった一言が言えない俺は―――臆病者なのだろうか。
それに、その言葉を言えばイチに「今更」と言われるのが目に見えている。



