グラスを割った時の怪我の手当て……と言う程大したことはできないが、とりあえずは大判の絆創膏だけを貼って、部屋の片付けをしていると、


TRRR


俺のケータイが胸ポケットで音を鳴らした。着信元は俺の事務所で


『オヤジ、今どちらですか?タイガの兄貴も居なくなっちまいましたし、こっち、ちょっとてんてこまいで』


と泣きそうな組員の声を聞いて


「タイガが?くそっ!あの野郎どこへ行きやがった」と歯軋り。


だがタイガの行先を考えるより、仕事を進めた方が早い。


「悪いが俺はこっちで仕事する。必要なデータを俺のPCに送ってくれ」


と言うと、組員はほっと安堵したようだ。


本来なら龍崎グループ本社の締日直前で、真夜中に帰宅することを覚悟していたが、中抜けしてきたのは―――


ちょっとしたいきさつがあった。


――

―――――


二時間前。


「オヤジ、コーヒーをどうぞ」


組員の一人が俺のカップに入ったコーヒーをデスクの脇に置いていき、すぐに違う組員に配り歩いている。


「普通なら女子社員が可愛らしく『どうぞ~コーヒーです』とか言って出してくれるはずなのに、何でこんなむっさい男ばっか」


「女子社員欲しいよな」


と、あちこちから声が挙がっていて。


けれど


「今までだって居たけどよー、オヤジとタイガの兄貴のやり取りに恐れて一日も持たなかったもんな~」


ちらりと、俺の方に視線を向ける組員に、じろりと睨み返してやると、組員は慌ててPCに向かい直る。


ただ一人


「僕はいつも被害者だよ~!!!」と喚いているタイガ。


その喚き声を無視して組員は続ける。


「じゃぁさ、イチさんに来てもらえばいいんじゃね?イチさん別に怖がってる様子でもないし、オヤジの知り合いっぽいし」


「ついでに僕のメル友でもあるよ~♪」


と、またもタイガが口を挟み、


俺は目を上げ


「イチはPCを触るのはおろか、まともに茶も出せんぞ」


と言うと


「別にいいっすよー。そこに居るだけで華になるっていうか」


と方々で声が挙がる。


「前々から思ってたんだが、あいつのどこがいいんだ」


と聞くと


「「「顔と体」」」


と、全員一致で声が揃った。


その台詞、実の父親が聞いていたとしたらどうする?