あたしたちの前に先客が居たのだろうか。その客が迷ってる……と考えたが、その動きの早さからして、普通の人間とは思えなかった。


かと言って動物の(たぐい)でもない。


その影は大きくて、ほんの一瞬見えたが、ひとの形をしていた。


「誰!」


あたしは声を張り上げた。


黒い影はあたしの狼狽を愉しむかのように、鏡の中を素早い動きで移動している。


「誰なんだよ!出てこい!」


あたしが尚も怒鳴ると




「ここだよ」




あたしのすぐ背後で低い男の声が聞こえた。


もちろん戒の声じゃない。


目の前の鏡を見ると、あたしと、あたしの背後に居る黒い人影が映しだされていた。


その手には




ハジキーーー!?




男はあたしのこめかみにハジキの銃口を当て、どこか愉しそうに





「後ろの正面


       だぁれ」





と、低く呟いた。