響輔に恋うる気持ちは、果たして血だけ―――なのだろうか。
ううん、それだけじゃない。
「あたしは―――本能で響輔が欲しいの」
鴇田は自嘲気味に笑ってグラスに口を付け、
「お前があいつに恋―――なぁ。
さっきは響輔にああ言ったが、お前が襲われてると思ったから、少し威嚇する程度だった。
今は昔の風習も薄れている。お前たちが恋愛しようと阻止したりはしない。
けどアイツは―――」
お前のこと、そこまで想っていない。とでも言いたいのだろうか。
鴇田はやがてそのグラスをじっと睨んだ。
「俺はたくさんのものを犠牲にしてきた。そのために愛した女たちを手放した。
この手で―――」
グラスに力が籠ったのが分かった瞬間、
パリンっ!
グラスが割れる音に、びくりとあたしの肩が揺れた。
鴇田の手の中のグラスは完全に割れていて、まだ中に入ってたであろうブランデーの液体と鴇田自身の血が混ざりあって手首や床に流れ落ちる。
「何やってるの……」
そう言えば前もこんなことあった。確か……あたしのピアスの一つを響輔が持ってるとけしかけて、こいつを龍崎組に向かわせた際、こいつは手の骨にヒビを入れて帰ってきた。
龍崎会長と仲違いしたみたいで、あたしのもくろみは半分成功したようなものだったけれど、あのとき鴇田は今と同じようにバスルームの鏡を割っていた。そのときはただ、ひたすらに悲しそうだったのに―――
今は―――
鴇田は割れたグラスの破片を強く握り、ポタッポタッと、琥珀色からはっきりと血液と分かる色が流れ落ちるのを見て、またその落ちた雫がラグに赤黒い染みを作るのを眺めて
「何……やってるの」あたしはもう一度弱々しく言った。
鴇田の耳にあたしの声なんて届いていないのだろうか。
「何やってんのよ!」
今度は大声で言ってあたしは近くにあったブランケットを手繰り寄せ、鴇田の手の止血をしようとした。
鴇田はそれを乱暴に払い、べったりと血のついた手のひらであたしの両頬を包んだ。
「響輔が俺に何を言いたいのか分かってた。
でも、戸惑ってるんだよ。俺は―――
―――お前に、どう接していいか分からない」



