だけどその笑いは長くは続かなかった。
あたしは底が見えたグラスの中に溜まった氷の残骸をストローで意味もなくかき混ぜながら
「あたし、その後、酷いこと言っちゃったんです」
「酷いこと?」先輩が目をまばたく。
「響輔さんは、残酷だよ。って」
あたしの言葉に先輩はしばらくの間腕組をして「う~ん」と唸っていたけれど、やがて何か答えが見つかったのか、ぱっと顔を上げた。
「俺、よく女たちに『クズ』だの『サイテー』だの言われたことあるけどさー、『ザンコク』ってのは言われたことなかったワ」
あそ……
やっぱこの人に相談すべきじゃなかったわ、あたし。
「でもそれもちょっと違うな、って思う。『ざんこく』って言う言葉はさ、思いやりがなくて平気で人を苦しめる人のこと言うんだろ?だからリコちゃんの発言は間違ってるよ」
言われてあたしが目をまばたくと
「キョウスケの兄貴の肩を持つワケじゃないけど、あの人誰よりも色んな人のこと考えてて、そんでがんじがらめになってんじゃないかなー。
誰に対しても真面目に対処しようとしてるけど、不器用なところがあるからさ」
それ、同じようなこと龍崎くんも言ってた。
龍崎くんが先輩に喋ったのかな?いや、そんなことはしないよなー流石に。龍崎くん、ああ見えてすごく口が堅いし。ましてや人の恋路をぺらぺら喋る人でもない。
そう言う意味で龍崎くんのことも信頼してる。
と……友達だし?
そう考えると、やっぱり進藤先輩は一応“先輩”なだけあって。子供なあたしよりちょっと“大人”な感じだ。
先輩の目には響輔さんがそう映ってるんだ。
この人、ガラ悪いしバカだけど、人を見る目って言うのかな、本質を見る目は備わってる。
先輩の目に
あたしはどう映ってるのだろう―――



